色川の棚田、昔と今

かつては200haあった色川の棚田

和歌山・熊野三山で有名な那智山の西側にある那智勝浦町・色川地区。山々に囲まれ広大な森林を有するこの地域は、温暖で雨が多く、古くから林業や茶の栽培が盛んでした。また、かつては銅の鉱山もあったことから、戦後一時は3,000人が暮らしていました。その当時は田畑も200haもあり、棚田が麓から山の上まで続く景色はまさに壮観だったと思われます。

 

しかし、昭和44年から始まった米の生産調整(減反政策)や、昭和45年の大阪万博による好景気の波を受けて、色川でも農業をやめて都会に職を求める若者が増加しました。さらに、昭和47年には色川の銅山が閉山。就業先を失った人たちの急激な人口流出が起こります。

その結果、耕作放棄地が増え、棚田の荒廃が進みました。


棚田復田への動き

 棚田が荒れると、土砂崩れや洪水の発生を防ぐ力も弱まり、先人の石積みの技や知恵も未来へ繋げられず、色川の宝である美しい棚田の景観も失われてしまいます。

棚田が荒れたままではもったいない、地域の宝を守りたいと、平成17年に地元の有志たちが力を合わせて色川地区・小阪の棚田を復活させます。30数年耕作していなかった休耕田4反78枚を昔のままの形に蘇らせたのです。

この復田を機に「棚田を守ろう会」が発足しました。

 

色川地区・小阪にある「米作り体験農場」では、毎年田植えや稲刈りなどのイベントを開催しており、近隣だけでなく大阪や名古屋などから多数の参加者が訪れています。

このような取り組みが功を奏し、2022年には色川の棚田群が農林水産省の「つなぐ棚田遺産~ふるさとの誇りを未来へ~」に選定されました。

集落の人口減による様々な問題

このように棚田の復田・保全の取り組みを行っている一方で、耕作を担って来た地元住民の高齢化と後継者不足から、休耕田は依然として増え続けています。

棚田の農作業は、田植えや収穫など限られた時期に多くの労働力が必要になります。集落の人口が減り人手が足りなくなった今では、棚田の保全に外部の力が欠かせません。「棚田を守ろう会」では「農業体験イベント」を開催したり、登録制のボランティア「棚田守り隊」を募集したりと、近隣地域や都市部からの協力を募って棚田の維持管理を行っています。

 

また収益面では、棚田は1つ1つの面積が小さいために機械化が出来ず、平坦な土地の水田に比べて労力が多くかかり、収穫量も多くありません。その生産性の低さから、「棚田を守ろう会」の活動資金の工面も厳しいのが現状です。

日常的な棚田の管理(水管理や草刈り)は、棚田を守ろう会の正会員が自分の田畑の作業の合間を縫って行っており、活動日数に応じて賛助会員・棚田オーナー会員から受け取った会費より労働賃金を分配する仕組みですが、活動初期に比べての賛助会員の減少もあり、活動意欲を高めるだけの賃金を得られていません。

 

この状況を改善するには、多くの方に棚田の現状を知っていただき、色川の安心安全(農薬・化学肥料不使用)な棚田米を食べて頂くことが重要になるかと思います。棚田は山間部にあるため朝晩の寒暖差が大きく、昼間の日差しをたっぷりと受けた稲がお米の粒の中にしっかりと糖分を蓄えるため、もちもちして甘みがある美味しいお米ができます。

また、私たちの活動趣旨に賛同し、資金面から支えていただく賛助会員も引き続き募集しています。

里地での獣害の増加

休耕田のほかに、深刻な問題になっているのが獣害の増加です。棚田は山間部にあるため、古くから野山に棲息するシカやイノシシへの獣害対策を余儀なくされてきました。しかし、今問題になっているのは野生動物の生息域が集落のある里地にまで拡大していることです。

 

猟師の減少による個体数の増加のほかに要因として考えられるのが、戦後の高度経済成長期に政府が木材を大量確保するために推し進めた「拡大造林政策」です。広葉樹の代わりに、スギやヒノキなど経済的に価値の高い針葉樹の植林が奨励されました。しかしその後、木材の輸入自由化で外国産の安価な木材の需要が高まり、木を育てても売れない状態になった日本の林業は衰退していきました。


山から人が遠のき、間伐もされなくなると、過密になった林では光が地表に届かず下草が生えません。広葉樹の減少でシカやイノシシの餌となるドングリなども減り、山全体に餌が乏しくなったところに、一方の里地では、耕作放棄地にススキやクズ、ササ、タケなどが生い茂り、野生動物の恰好の餌場、潜伏場所、移動経路となりました。そして周辺の水稲、イモ類、マメ類、野菜、果樹を農作物を食い荒らしたり、踏み荒らしたりするようになったのです。

集落の人口減により山に入る人が減ったこと、里地の耕作放棄地への野生動物の侵入を許していること等、野生動物に対する人間側の圧力が弱まっていることが獣害が増えている原因と考えられます。

野生動物が寄り付かない集落作りが、棚田を維持する上でも重要な課題になっています。そのためにはやはり「人」と「資金」が必要です。

棚田を守ろう会「賛助会員募集」

色川の「棚田を守ろう会」では、地域の宝である美しい棚田の景観を守り、昔の人の知恵の詰まった棚田米作りを未来につなぐため、地域一体となって棚田の復田や維持管理を行っています。
活動趣旨に賛同し、資金面から支えていただく「賛助会員」を募集しています。
会員特典の返礼品を、棚田米のほか色川の各種産品からお選びいただけます。



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