酒井 泰幸 さん
移住者色川歴:3年以上
2019年に愛知県から移住。「食べられる森」フォレストガーデン作りを目指しながら、棚田跡の土地に元々植えられていたギンナンの栽培をしている。
地域の環境運動に関わり、自給用ソーラー発電や小水力発電の技術面を担当。
チャールズ・アイゼンスタインの書籍を翻訳しながら、環境運動の指針としている。
https://note.com/taikoen
聞き手:ふるさとプロボノ プロボノワーカー・チコ
Q: 棚田を守ろう会に参加されたキッカケを教えてください。
地域の人たちと知り合いになる場を求めて棚田を守ろう会に参加しました。
もともと実家が農家で、子供の頃に手作業での米作りを少しだけ体験したことがあったので、その頃を思い出しながら棚田の農作業をお手伝いしています。実家の米作りはその後機械化され専門業者に委託されてしまいましたが、伝統的な手作業の意味を色川で再発見しています。
Q: 棚田での米作りは、ご実家での米作りと違うところはありますか?
棚田の水路はコンクリートではないので、毎年手作業で補修しないと崩れていきます。補修には赤土をセメントで強化したものを使い、崩れたところを埋めていきます。
棚田の多くは土石流が堆積したゴツゴツした岩の上に作られていて、赤土で田んぼの底を作って水を張っているので、時々底が抜けて田んぼに穴が空くこともあり、平地の水田にはない苦労があります。
Q: 棚田跡でギンナンの栽培もされているのですか?
元は棚田だったところに、前の土地の所有者が銀杏の木を植えて銀杏畑をやっていたんです。それを引き継いでギンナンを育てています。
銀杏畑は上手く育っている場所と育っていない場所があったので、実が大きくて美味しい品種を選んで、接木苗(優良種のクローン)で増やすことを試しています。
銀杏の木は種から育てると20年近くかかりますが、接木苗で育てると、収穫できるまで5年、最盛期になるまで10年くらいです。
Q: 「食べられる森」フォレストガーデンとはどんな森ですか?
南平野(色川に9つある集落のうちの一つ)のこの土地は、昔あった水脈が途絶えて土壌に水が足りていない状態で、以前のような水田には戻せないんです。それで棚田の地形は活かしながら、食べられる色々な植物を植えて「食べられる森」フォレストガーデンを作っています。棚田の広い意味での別の使い方を目指しています。
自宅の周りには、梅やバナナ、ブルーベリー、オレンジ、イチジク、ザクロ、ヒメリンゴ、くこの実、びわ、西洋菩提樹(リンデンバウム)などを育てています。
また、銀杏畑よりさらに山の上には、広葉樹林を復元するためにドングリの木を植えました。アクの少ないマテバシイやスダジイ、ツブラジイなどの品種を選んでいます。
木を育てるのは何年も時間が掛かりますが、育ってしまえば自然と実が成るのを採るだけでよいので、米作りほどの労力は必要ありません。
いつの日か森が育ち、縄文時代のような狩猟採集生活を復元させるのが究極目標です。
狩猟についてはあくまで獣害対策としてですが、狩猟免許は取りました。
庭では重箱式巣箱で養蜂をされていました。色川では今、養蜂がブームだそうです。
採取したハチミツは蜜蜂が集めてきた色川の花の味がします。
Q: 色川に移住される前から環境問題に関心をお持ちだったのですか?
以前からエコロジー経済学を学び、環境問題や“自然農”に興味がありました。
自然農の定義は様々あるのですが、一つに農薬を使わないことが挙げられます。それは「安心・安全なものを食べたい」という自分の健康に着目した発想というより、農薬を使うと害虫だけでなくその天敵となる様々な虫や生き物まで傷つけてしまい、生態系が壊れて却って害を被る可能性があるので、それを避けるため「草や虫を敵にせず」自然の多様性を大事にする発想になります。
棚田を守ろう会の田んぼも、自然農を取り入れて無農薬で稲を育てています。
田んぼでの自然農は自然の多様性を大事にしながら、稲など主となる農作物は1つですが、フォレストガーデンでは、一つの畑の中に多様な食べられる植物たちが何層にもなって実っている、そんな多層での多様性を実現したいです。
「食べられる森」で自給自足ができるようになれば(実際は簡単ではないですが)、そこで育つ植物が自分の口から身体の中を通り抜けることにより自分は維持されることになります。そうなれば森も自分の身体の一部で、森が健康かどうかが他人事ではなくなります。
そのような状態にならないと、環境問題も解決しないだろうと思っています。
Q: 電気も自給されているのですか?
今はソーラー発電で家の電力の半分をまかなっています。ソーラーシステムや部品の購入で初期投資が要りましたので、コスト面で考えると20年でトントンくらいだと思います。
電気を自給している目的は、万が一の災害時に必要最低限の照明と通信を確保できるようにしているというのが大きいです。
電源システムは、バッテリーと充電コントローラーとインバーター2台の自動切換えを自分で設置しました。
電気工事士の資格を取って合法的に行いました。
このほかにも、色川で小水力発電の技術面を担当しています。
都会にいると切り離されてしまう“色々な繋がり”を、色川では取り戻すことができます。
人と自然、人と人、自分と自分の中の自分・・・
是非色川までお越しになって、都会生活やSNS上とは違う繋がりを感じてみてください。
色川の「棚田を守ろう会」では、地域の宝である美しい棚田の景観を守り、昔の人の知恵の詰まった棚田米作りを未来につなぐため、地域一体となって棚田の復田や維持管理を行っています。
活動趣旨に賛同し、資金面から支えていただく「賛助会員」を募集しています。
会員特典の返礼品を、棚田米のほか色川の各種産品からお選びいただけます。